2010年6月19日土曜日

俳句九十九折(88) 七曜俳句クロニクル XLI・・・冨田拓也

俳句九十九折(88)
七曜俳句クロニクル XLI

                       ・・・冨田拓也


6月13日 日曜日

先週に引き続き、『現代詩手帖』6月号から波及しているゼロ年代の100句選について少しふれたい。

これまでの内容をわかりやすく俯瞰したいとの個人的な思いから、作者名のみではあるが以下に一応簡単に纏めてみた。

・高柳克弘選

宇多喜代子、友岡子郷、櫂未知子、宗田安正、辻征夫、大木あまり、金子兜太、飯島晴子、佐藤鬼房、岩田由美、土肥あき子、三村純也、田中裕明、正木ゆう子、三橋敏雄、高野ムツオ、永末恵子、桂信子、中原道夫、神野紗希、筑紫磐井、冨田拓也、石田郷子、片山由美子、大石悦子、深見けん二、奥坂まや、小澤實、池田澄子、大峯あきら、高山れおな、鴇田智哉、福田甲子雄、五島高資、対中いずみ、藤田湘子、高橋睦郎、八田木枯、長谷川櫂、井越芳子、小川軽舟、南十二国、佐藤文香、山上樹実雄、小島健、照井翠、綾部仁喜、杉山久子、榮猿丸、眞鍋呉夫、川崎展宏、津田清子、坪内稔典、今井杏太郎、加藤かな文、山西雅子、岸本尚毅、柴田千晶、相子智恵、越智友亮、関悦史、田中亜美、谷雄介、村上鞆彦、山口優夢、今井聖


・高山れおな選

角川春樹、小原啄葉、宇多喜代子、友岡子郷、、櫂未知子、岡井省二、宗田安正、星野石雀、辻征夫、大木あまり、金子兜太、飯島晴子、佐藤鬼房、なかはられいこ、坪内稔典、草間時彦、岩田由美、岩下四十雀、土肥あき子、山上樹実雄、矢島渚男、三村純也、正木ゆう子、三橋敏雄、高野ムツオ、佐藤成之、福田甲子雄、川崎展宏、竹中宏、永末恵子、安井浩司、中原道夫、神野紗希、筑紫磐井、冨田拓也、石田郷子、片山由美子、大石悦子、八田木枯、桂信子、田中裕明、深見けん二、奥坂まや、小澤實、満田春日、池田澄子、久保純夫、高橋修宏、大峯あきら、高山れおな、鴇田智哉、黒田杏子、宮崎斗士、五島高資、恩田侑布子、ことり、対中いずみ、藤田湘子、高橋睦郎、茨木和生、長谷川櫂、小野裕三、津沢マサ子、杉山久子、柚木紀子、田島健一、曾根毅、対馬康子、山本紫黄、九堂夜想、佐藤文香、水野真由美、照井翠、志賀康、小川軽舟、綾部仁喜、榮猿丸、眞鍋呉夫、阿部完市、大牧広、中岡毅雄、佐藤清美、山西雅子、岸本尚毅、柴田千晶、男波弘志、相子智恵、越智友亮、関悦史、田中亜美、谷雄介、村上鞆彦、山口優夢、北大路翼、西澤みず季、久保佳世子


・冨田拓也の補足

清水径子、鈴木六林男、小川双々子、和田悟朗、吉田汀史、手塚美佐、西村和子、坂本宮尾、中田剛、皆川燈、佐々木六戈、浦川聡子、小林千史、仁藤さくら、辻美奈子、山根真矢、高柳克弘

作者名だけを見るならば、ゼロ年代の俳句における成果というものはやはり大体このあたりということになるというべきであろうか。

あと他に名前が挙がってきてもよさそうなのは、柿本多映、澁谷道、斎藤慎爾、山本洋子、宮脇白夜、豊口陽子、大木孝子、千葉皓史、夏石番矢、鎌倉佐弓、江里昭彦、林桂、あざ容子、四ッ谷龍、今泉康弘あたりか、とも。



6月14日 月曜日

なんとなく「夢殿」という言葉が思い浮かんできた。

夢殿は奈良の法隆寺の東院の本堂で、739年に行信という僧が建立したとされる八角円堂。本尊は救世観音像ということになる。

夢殿の赤に世の冬永きかな     松瀬青々

夢殿やしぐれのあとの風が吹く   寺井文子

夢殿におのれを見付け涼しさよ   和田悟朗

夢殿へ雨よ跣足のともるなり    金田咲子

夢殿に失意の太陽ありぬべし    攝津幸彦

箱庭に置く夢殿のなかりけり    中田剛

夢殿を鎖につなぐ春の犬      あざ容子



6月16日 水曜日

邑書林から『浅井霜崖全句集』が出版された。

自分はこの浅井霜崖という作者の存在については、今回この全句集を手にしてはじめて知ることとなった。小川双々子の「地表」で活動していたとのことである。

そもそも小川双々子のみならず、その弟子たちの存在というものも、外部というか現在となっては、いまひとつ明確に把握し難いようなところがある。

浅井霜崖は、肺結核の療養中に加藤かけいに師事し、かけい没後、小川双々子に師事、双々子の「地表」に参加。平成7年に句集『黄沙茫茫』が限定出版されていたらしい。

今回の全句集の栞には、阿部鬼九男、伊吹夏生、中根唯生の三氏が文章を寄せており、阿部鬼九男の栞文には、「岡本信男」、「高桑星吐」などといった名前が登場してくるところが個人的には興味深い。二人とも「地表」のメンバーであり、現在ではすでに故人であるそうである。

また、本書には、作品として昭和28年以降の全1304句が収録されている。

まだこの全句集の作品をしっかりとは読んでいないのであるが、目についた句をとりあえずここにいくつか引いておきたい。

黒髪の一本づつに月明す

鶯のこゑ握り飯巖にのせ

自轉車の父きさらぎの空みがく

わが思考寒し溺るる空瓶と

雷雨後の聲つややかに通りけり

穂絮翔つ風の中なる出生地

風買ひがゐる八風街道眞冬

鶯のこゑ一巻の三千字

生前の時計がうごき水澄めり

うぐひすに組みし十指は定型か

人類の頭蓋こえゆく黄沙かな

がうがうと黄沙仰臥の胸の上

唐草模様に包みたるもの、魂

花ふぶき狂ひのたらぬ男かな




6月17日 木曜日

『現代詩手帖』の6月号を読んで以来、ついふらふらと岡井隆をはじめとする現在の短歌作品に手を伸ばすことが多くなってしまった。

そうなると、やはりつくづく俳句というものは、非常に制約の多い形式であるように感じられてしまうところがある。普段俳句に馴染んでいる者の眼から見ると、現在の短歌の世界というものは、なんだか言葉がさほど狭い枠組みの中に縛られることなく随分と伸び伸びとそれこそ「自由」にふるまっているように見えるのである。

いまさらのことかもしれないが、岡井隆にしてもその作品には口語の使用が目立ち、ほとんど「ライトヴァース」とでもいっていいような趣きを呈している。

そういえば、これに若干近い現象をどこかで見たような気がするな、と思うところがあった。そして、暫くしてから「金子兜太」という名前が思い浮かんできた。

よく考えれば、2人ともそれぞれ前衛短歌、前衛俳句の驍将であったわけであるが、岡井隆のみならず、近年の金子兜太にも口語的というか若干ライトヴァース的な表現の俳句が散見されるのである。

酒止めようかどの本能と遊ぼうか

春落日しかし日暮れを急がない

おおかみに螢が一つ付いていた

子馬が街を走つていたよ夜明けのこと

合歓の花君と別れてうろつくよ


金子兜太にも、岡井隆と同じく、時代による「ライト化」の影響というものがその作品に割合波及しているところがある、といっていいのかもしれない。



6月18日 金曜日

今日、テレビを見ていると、「神楽坂」についての放送をしていた。

この地において、尾崎紅葉が「原稿用紙」というものを最初に発案し、製品化されることになったとのことである。

そういえば、紅葉門の作者に次のような句があったということを思い出した。

秋の灯や藍摺にせし原稿紙    岡野知十

ということで、これは当時における「新しみ」の句ということになるようである。



6月19日 土曜日

明日の6月20日に、愛媛県で第3回の芝不器男俳句新人賞の選考会が行われるそうである。

自分は今回の選考会には赴かないので、明日は自宅に蟄居し、刮目して選考結果の報せを待つことにしよう。

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