七曜俳句クロニクル ⅩⅩⅩⅢ
・・・冨田拓也
4月19日 月曜日
本日の「朝日新聞」の朝刊に「短歌時評」として歌人の田中槐氏が、『新撰21』(邑書林 2009)を話題にしておられた。
俳人と歌人の会合の中で、歌人から見ると『新撰21』に掲載されているいくつかの句には、かなり短歌に近いものがあるという感想が聞かれたそうで、
しかしそのことを具体的な句を挙げて話し合っていくうちに、歌人が「短歌っぽい」と感じる句と、俳人が「短歌っぽい」と感じる句にはかなり開きがあることがわかった。これは衝撃的な体験だった。
とのことである。
そういうものなのか、と非常に意外な思いがした。ということは、この自分にしても、ある俳句作品に対する「短歌っぽい」と感じる感覚というものは、歌人の方たちとは相当に異なる可能性が高いということになりそうである。
4月20日 火曜日
出版社である「ふらんす堂」のHPにて、桂信子の全句集を読む企画である「草のこゑ」に拙文「時の向こう」を掲載していただいた。
しかしながら、あのような文章でも何度も何度も推敲を繰り返して漸く書き終えたものなのであるが、現在見てみるといくつも書き落していることがあって、つくづく文章の難しさを実感するところがあった。
少々補足するならば、作品の変化という点については、
梅林を額明るく過ぎゆけり 第1句集『月光抄』(昭和24年刊)
↓
きさらぎをぬけて弥生へものの影 第5句集『初夏』(昭和52年刊)
という感じとなろうか。
あと、この作品における「ものの影」という言葉からは、「木の葉や草」、「鳥」などの形象が浮かび上がってくる、といった感じで少々限定したかたちで書いてしまったのが、単純にこの「ものの影」には「木の葉や草」、「鳥」のみならず、他の「春の季節」における様々な存在、即ち「雲」、「水」、「山」、「魚」、「亀」、「昆虫(蝶など)」などなど、実に多くの事象が含まれているということになる。また、その中には、春において開花する様々な「花」の存在というものも忘れてはならないであろう。
そして、この句の「ものの影」という言葉の意味するところにおいて、桂信子という作者の意識下に割合強く思い描かれていたのは、もしかしたら「桜」の存在ということになるのかもしれない、という気のするところもある。
ごはんつぶよく噛んでゐて桜咲く
一心に生きてさくらのころとなる
花のなか魂遊びはじめけり
4月22日 水曜日
なんとなく「川端茅舎」という言葉が思い浮かんできた。
夏死にて川端茅舎すがすがし 下村槐太
茅舎忌の夜はしづかに天の川 野見山朱鳥
茅舎の死ある夜ひとりの夏座敷 飯田龍太
年々や茅舎の花の朴咲けり 和田魚里
朴咲けりさらに茅舎は白く泛く 八田木枯
かくてはや露の茅舎の齢こゆ 上田五千石
4月23日 金曜日
昨日、名前が思い浮かんだきたため、アンソロジーで川端茅舎の作品をいくつか読んで見る気になった。この川端茅舎は、時代的には1897年~1941年における作者ということになる。
白露に鏡のごとき御空かな
金剛の露ひとつぶや石の上
蚯蚓鳴く六波羅蜜寺しんのやみ
蝶の空七堂伽藍さかしまに
飴湯のむ背に負ふ千手観世音
寒月の砕けんばかり照らしけり
河骨の金鈴ふるふ流れかな
月光に深雪の創のかくれなし
久しぶりにこの作者の句に目を通してみたのだが、なんというか、この作者の作品を読んでいると、その高貴さというか異様なまでの迫力というものに、それこそ実作者として単純に気落ちしてしまうようなところがあった。
現在において、こういった俳句作品を成し得ることは単純に可能なのだろうか。
現在の俳句作者というものを見渡してみても、このような作品をそのままに成し得ているような作者というものは、単純には見当たらないように思われる。現在ではこのような表現で俳句を書こうとすると、もっと内容の薄まったかたちでの表現となるか、逆にもっと文芸色の強い傾向の作品となるのではないかという気がする。
やはりこの茅舎の作品というものは、単純に現在とは時代の異なる表現ということになるというべきであろうか。
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