七曜俳句クロニクル ⅩⅩⅩⅣ
・・・冨田拓也
4月26日 月曜日
先週「茅舎」という言葉から、
夏死にて川端茅舎すがすがし 下村槐太
という句を取り上げたのだが、この句はもしかしたら、弟子の金子明彦という作者の、
君はきのふ中原中也梢さみし 金子明彦
ノヴァリスの小説さみし乾あんず 〃
という作品が生み出される契機となったものであるのかもしれない、という気がした。どちらも共に人名が使用された句ということになる。
4月27日 火曜日
「時間」という言葉が思い浮かんだ。このテーマは以前にも1度取り上げたことがある。時間の広がりを1句の内に取り込むことで、作品の世界の中に奥行きを付与することができる、ということになる。
傘干すや雨も未来のものの一つ 火渡周平
初蝉や思へば長き世なりけり 加藤かけい
永劫の涯に火燃ゆる秋思かな 野見山朱鳥
海を出て四億年の暮の秋 矢島渚男
雲の峰過去深まつてゆくばかり 〃
巨樹黄葉原初に爆ぜてすべて済む 竹中宏
百年ののち吹いてゐる春の風 林亮
滴らす五十六億余年かな 五島高資
4月28日 水曜日
書店で、『俳壇』、『俳壇年鑑』、『俳句四季』、『俳句』、『俳句界』などを立ち読み。
俳句関係の新刊の方は、書棚を見るかぎりでは、特にこれといったものは刊行されていない様子であった。
しかしながら、俳句の雑誌を読んでいると、「ゼロ年代」の俳句作者が割合何人か登場している様子で、やはり俳句の世界における現実というものが、このところ若干ながらも確実に動きはじめてきているところがあるのではないか、という思いのするところがあった。
4月29日 木曜日
角川の『俳句』には、毎号「角川俳句賞」の募集の案内が掲載されているのであるが、大体いつもこの時期となるとこの公募の頁をまじまじと見つめながら、自分のような来る日も来る日もまるで野良犬のように迷走を続けながらそれでもどうにか俳句を書き綴っている愚かな者でも、この賞に応募すれば、もしかしたら野垂れ死にという憂うべき運命から辛うじて免れ得る可能性もあるのかもしれないな、といった儚い願望を伴った空想に耽ることがここ数年の慣例と化している。だからといって、いままでにこの賞へ応募したことは結局のところ一度たりともないわけであるのだが。
今回の締切は、5月31日ということで、今年は時間のことを考えると自分には応募するのはほぼ不可能ということになりそうである。
来年はどうしようかなあ……、と思案しているのであるが、思えばこういった逡巡もまた毎年のように繰り返している種類のものではある。
4月30日 金曜日
しかしながら、毎年「角川俳句賞」の応募作品というものをいくつか眺めていると、嘗ての俳句(といっても様々であるが)と比べてみた場合、現在の俳句作品が欠落させてしまっている部分というものが割合はっきりとしたかたちを以ていくつかその作品の上に浮かび上がって見えてくるところがある。(ただ、それが単純にマイナス面のみであるとはいえないところもあり、また嘗てと比べてみた場合新しく加わっている要素というものも当然ながらあるのであろうが。)
ともあれ、そういった欠落部は、嘗ての俳句と比較しながら読んでみた場合、相当明瞭に見えてくるわけであるが、一応今回のところは、そういった点についてはっきりと言明するのは、とりあえずのところ止しておくことにしたい。
5月1日 土曜日
この連載をある程度通して読んでみればおわかりいただけるであろうが、いつも自分はあまり俳句雑誌というものを碌に購入せず、書店でいい加減に立ち読みばかりしている。こういったことばかりを繰り返していると、小川軽舟さんの御著である『魅了する詩型』(富士見書房 平成16年)の中の、
俳人が俳句を読まなくて、誰が俳句を詩歌たらしめ得るというのか。
という厳しいお言葉が時折脳裏に思い浮かんでくるところがあって、なんというか軽い罪悪感に苛まれることがしばしばある。
そんなことをぼんやりと考えていると、単なる偶然であるのか、俳句結社『鷹』の編集部より、藤田湘子の『新版 20週俳句入門』(角川学芸出版)をお送りいただいた。ありがとうございます。
ちょうど俳句の「意味性」というか、「わからない俳句」というものについてすこし考えているところでもあった。湘子はよく「俳句は意味だけではない」といったような発言をしていたそうである。
わが裸草木虫魚幽(くら)くあり 藤田湘子
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