2010年1月17日日曜日

俳句九十九折(66) 七曜俳句クロニクル ⅩⅨ・・・冨田拓也

俳句九十九折(66)
七曜俳句クロニクル ⅩⅨ

                       ・・・冨田拓也

1月9日 土曜日

昼ごろ、関西の俳句のとある集まりに出席。例によって、自分は滅多に人前に姿をあらわさないため、ここへ出席させていただくのも約1年振りということになってしまった。

この集まりは、関西における名の知れたというか、まさに実力派というべき俳句作者が何人も顔を見せる会合で、その報告内容や意見交換のレベルは相当に高水準のもので、例によって自分はいつものごとく、ただ目をぱちくりとさせているのみであった、

会合の後、実作、論評ともに大変な膂力を誇るあるお方から、『新撰21』に収録されている拙作100句について、「ざっと読んだ印象ではあるが、それほど悪くはなかった」というご感想をいただき、随分とほっとするところがあった。

また、この間東京へ行った時もそうであったのだが、今回もこの「―俳句空間 豈―weekly」の自分の連載を読んでいると声を掛けて下さる方が何人もおられて、やはり俳句に興味を持っている方が読んで下さっているのだな、ということを実感するところがあった。



1月10日 日曜日

昨日、とある方より俳句誌『豆の木』を直接いただいた。たまに俳句の集まりなどへ出掛けると、何か貰えたりするので嬉しい。

『豆の木』は超結社で、なかなかの実力派の俳人が揃っており、またそれだけでなく全体的に遊び心といったものを大切にしているといった雰囲気に満ちた俳誌である。今回いただいたのは、2008年4月刊行の12号で、やや異色ともいうべき奇妙な面白みの感じられる作品がいくつも見出せる。

人口過密都市に毬藻を育てゐる  大石雄鬼

陸橋の前まで鷺でありにけり  こしのゆみこ

一房の一気に黒くなるバナナ  近恵

夕暮が見知らぬ蟹を連れてくる  さいばら天気

白鳥定食いつまでも聲かがやくよ  田島健一

鳥の恋ノースカロライナへ無線  中嶋憲武

踝を固くプールに浮いている  三宅やよい

虚子の忌の鎌倉ハムの詰合せ  上野葉月

青鮫の来るほどシンク磨きけり  岡田由季

背伸びして風船つかむ文化の日  小野裕三



1月11日 月曜日

なんとなく「『天狼』と通俗性」といった考えが思い浮かぶ。

「天狼」は、いうまでもなく山口誓子の俳誌であり、その「天狼」における作者といっても多種多様であるが、何人ものこの天狼の系譜にあたる作者の作品を見ていると、その作風の根底には、容易に「通俗性」へと泥んでしまう危険性といったものが多分に抱懐されているところがあったのではないか、という気もする。



1月14日 木曜日

普段、「川柳」についてはほとんど読むことがないのであるが、この文芸についてもある程度目を通しておく必要があるのではないかという強迫観念と、ろくに読まないことへの後ろめたさといったものの双方に、随分と長い間苛まれ続けているところがある。

いまから何年か前にも同じような思いを抱き、いろいろと川柳に関する資料を集めていたこともあったのであるが、いまひとつ川柳作品を読む行為といったものにしっかりと腰を据えることができないまま(一応基本ともいうべき作品にはある程度目を通したような記憶はあるのだが)、気が付けば、ただ徒に歳月だけが経過してしまっていた。

しかしながら、川柳における優れた成果というものは、果たして現在、その成果を簡便に俯瞰できるように、アンソロジーなどといったかたちで資料としてどれくらい適切に纏められているのであろうか。自分が何年も前に、川柳を読もうとしつつも途中で読む行為を途絶えさせてしまうことになったのには、自分の堪え性のなさがその原因のひとつであったのは疑いようのないところであるが、それのみならず、川柳における読みたいという思う資料、もしくは重要と思われる資料といったものがいまひとつ手に入らなかったという事情も、一因であったような記憶がある。

谷底を鬼が行くとき花降れり  中村富二

風の夜は風の化身のお前たち  片柳哲郎

帯をとくふるい雪崩がよみがえる  前田芙已代

窃盗のひとりは見張りひとりは神と饒舌る  大島洋

おとこ痩せさらばえてなお男たり  寺尾俊平

かぞえきれない遊女の影のなかにいる  児玉怡子

逢いたくて雨の炎をくぐり抜け  前原勝郎

神様に借りているのは破れ傘  村井見也子

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■関連記事

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俳句九十九折(65) 七曜俳句クロニクル ⅩⅧ・・・冨田拓也   →読む

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7 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

冨田さん こんばんわ。

「天狼」は/容易に「通俗性」へと泥んでしまう危険性といったものが多分に抱懐されているところがあったのではないか、という気もする。(貴文)

鋭い指摘だと思いますが、通俗への危険性は俳句の各潮流全般に言えることなので、敢えて、「天狼」のみをを決めつけることでもないようにおもいますが・・。

●川柳については、これもほんとうに幅が広くて、もっと気軽に愛読していったら、全体に自由な風がとおって行くと思います。

冨田拓也 さんのコメント...

吟さま

コメントありがとうございます。

そうですね。
たしかに通俗性へ陥る危険性はどこでも同じでしょうね。
今回のこの文章は、一応、誓子の語彙(星座や「虹」など)からの発想というか連想ということになります。


川柳については、「豈」にも樋口由紀子さんや小池正博さんなどがおられますね。

関西は割合川柳が盛んな土地なのでしょうか。作家の田辺聖子さんもおられますし。

そういえば岡山県は川柳が盛んな県だそうですね。

ともあれ、川柳についてももうすこししっかりと読みたいと思っております。

湊圭史 さんのコメント...

冨田拓也さま

川柳に興味をもって一年あまり、私もいろいろ集めているのですが、同様でなかなか読みたいものが手に入りません。評論はまだしも実作が図書館などにほとんど収められていない。最近まで柳人に句集を出す習慣があまりなかった、ということもあるらしいのですが・・・。

以下、冨田さんはもう目を通してるかも知れませんが、現代川柳の広報?目的でちょっと資料をあげさせてもらいます。

2000年辺りにいくつか現代作家のアンソロジーが出ていて、

北宋社編『西暦二千年度版 現代川柳の精鋭たち 28人集―21世紀へ』北宋社、2000.
北宋社編『新世紀の現代川柳20人集』北宋社、2001.
(あと、高知の川柳木馬グループ刊の『現代川柳の群像』という本があるそうですが、私は未見)

これ以降の成果は、邑書林刊のセレクション柳人シリーズ、それに倉本朝世さんのあざみエージェントから出版されている佐藤みさ子『呼びにゆく』(2007)などの個人詩集でしょうか。

一気に時代を遡って、新興川柳の成果をまとめたアンソロジーが、

一叩人編『新興川柳選集』たいまつ社、1978.
(一叩人さんは『鶴彬全集』の編もされていますね。)

関西の伝統系の雄・番傘のアンソロジーが、

岸本水府監修、番傘川柳本社編『類代別・番傘一万句集』創元社、1963.
礒野いさむ監修 番傘川柳本社編『類代別・番傘一万句集』創元社、1983.

構造社出版から1980‐81年に出版されている川柳全集には、岸本水府を含む六大家や井上剣花坊の句がまとめられています。が、各巻収められている句が驚くほど少ない。それぞれ膨大な数の句を残しているはずですが・・・。

戦後の革新派川柳は、八幡船社刊の「私版・短詩型文学全書」の川柳篇に、河野春三、林田馬行、草刈蒼之助などに加えて、革新派ではないですけど根岸川柳らも入っています。

今、私がいちばん現物を見たいのは、

渡部可奈子『鬱金記―可奈子川柳集 (展望叢書7)』 川柳展望新社、1979.

ですが、個人的なツテ以外ではアクセスできなそうです。

ともかく、明治から少し前までの川柳の良作を通関できるアンソロジーがあればいいのですが、どうも観察している感じでは出される気配はなさそうです。事典などの編纂は進んでいるようですが・・・。

と、コメント欄に長々とすみません(笑)。『現代川柳の精鋭たち』などは知り合いに頼んで送ってもらうことも出来るかもしれません(私も送っていただきましたので)。興味がありましたら、メールでご連絡ください。

湊圭史

冨田拓也 さんのコメント...

湊圭史様

懇切なコメントありがとうございます。

湊さんは、川柳に興味を持ってまだ1年だったのですか。
勝手に随分前から「柳人」でもあられるのかな、と思っておりました。

やはり川柳の資料はあまりしっかりと纏められていないのですね。

『西暦二千年度版 現代川柳の精鋭たち 28人集―21世紀へ』と『新世紀の現代川柳20人集』は私も持っておりました。

一叩人編『新興川柳選集』、には目を通した記憶があります。

「私版・短詩型文学全書」は草刈蒼之助だけ読んだ記憶があります。あと福島真澄(だったかな?)も。

河野春三には以前から興味がありました、読んでみたいところです。林田馬行は名前もよくわからず、読んだこともないですね。

邑書林さんの「セレクション柳人シリーズ」は、恥ずかしながら数冊しか手元にありません。本来的には全冊しっかりとチェックしておくべきなんでしょうけれど。

あとアンソロジーとして重要なのは、

・『短歌 俳句 川柳 101年 1892~1992』 三枝昴之 夏石番矢 大西泰世 編(新潮社 1800円・平成5年初版発行)

・『三省堂 現代川柳鑑賞辞典』田口麦彦 編(2004)

くらいでしょうか。個人的にはまだあまりしっかりと目を通していない部分が少なくありませんが。

渡部可奈子の作品、なかなか迫力がありますね。お教えいただきありがとうございました。

片肺いちめんの河原 真紅の水曳いて 渡部可奈子

胎児せがめば日は蒼々と鳴き交わす  〃

風百夜 透くまで囃す飢餓装束  〃

樋口由紀子 さんのコメント...

ずい分前から川柳人の樋口です。
富田さん、湊さん、吟さん、ありがとうございます。

川柳における読みたいという思う資料、もしくは重要と思われる資料といったものがいまひとつ手に入らなかったという事情も、一因であったような記憶がある。

確かに言われるとおりで、川柳は外に向かって発信する意識が乏しいです。
川柳人も句集は出すのですが、仲間内に配る程度でほとんど、流通していないのが実状です。そのなかには書店売りしても
十分通用するいい句集もいっぱいあります。
時実新子の句集は割りと手に入りやすいと思いますので、一度は読んでほしいです。

今、私がいちばん現物を見たいのは、
渡部可奈子『鬱金記―可奈子川柳集 (展望叢書7)』 川柳展望新社、1979.
ですが、個人的なツテ以外ではアクセスできなそうです。

展望叢書は他に淡路放生、八坂俊生、住田三鈷、清川理川など全九集あり、
どれも読み応えあります。
他にお勧めは前田雀郎『俳諧と川柳』、山村祐『続短詩私論』などがあります。
一番読んでもらいたい川柳人は中村冨二ですが、手に入らないでしょうね。
赤いピッコロを買ってやる 肥った妻に
雑音に背を叩かれて墓地に来た
たちあがると 鬼である
少年怠惰 ねむい支那饅頭である
人形の帽子はみんな生意気だ
セロファンを買いに出掛ける蝶夫婦
なめくじに眼がない だから私が生れ
パチンコ屋オヤ貴方にも影がない
では私のシッポを振ってごらんにいれる
マンボ五番「ヤア」とこどもら私を越える
        『中村冨二集』八幡船社刊
『現代川柳の精鋭たち』(北宋社刊)は残部少々ありますので、
欲しい方は樋口までメール下さい。差し上げます。

湊圭史 さんのコメント...

樋口由紀子さま

フォローありがとうございます。

中村冨二の句はなかはられいこさんのサイト
「短詩型のページ μ-みゅう-」に
『千句集』として掲載されていますね。
http://www.ne.jp/asahi/myu/nakahara/maboroshi/tomiji/tomiji_04.html

同じサイトに、定金冬二『無双』も掲載されています。
http://www.ne.jp/asahi/myu/nakahara/maboroshi/musou/fuyuji_shishosetsu.html

ウェブ上でいくと、石田柊馬さんのブログ、
「柊馬のつぶやき」
http://star.ap.teacup.com/touma/
および
「柊馬の川柳フェスタ」
http://gray.ap.teacup.com/touma/
に、革新系川柳がくわしく紹介されています。

みなと

匿名 さんのコメント...

言及がある「草刈蒼之助」は私の祖父です。自分は川柳は作りませんが現在翻訳とモノカキ業ですので血を受け継いだとはいえそうです。

KK