2008年10月18日土曜日

俳句九十九折(8)俳句アンソロジー・・・冨田拓也

俳句九十九折(8)
俳句アンソロジー

                       ・・・冨田拓也

A 今回から新しい展開を始めます。

B 前回まで俳句史を大雑把にみてきました。これからどうするのですか。

A この連載の第一回目に俳句アンソロジーの構想を計画しました。

B そうでしたね。もうとっくに忘れていましたが。

A そして、この連載の第2回目で、「近代俳句史人名リスト」を作成しました。

B あの名前ばかり並べたものですね。

A あの「近代俳句史人名リスト」に沿って、一人一人の句を選び出し、簡単な略歴と解説を付していけば俳句アンソロジーが完成するというわけです。

B なるほど。しかしながら気の長い作業となりそうですね。あのリストにある作者は300名以上あります。

A まあ、少しずつ進めていくことにしましょう。どこまで続くかわかりませんが。

B そういえば、他にも第一回ではいくつか構想がありましたね。

A 「俳論の歴史」や「もう一つの俳句史」、「百人一句」でした。しかしながら、「俳論の歴史」については、資料が多すぎるので、はっきりいってどうしようもないですね。

B そうですね。せいぜい可能なのは、主要と思われる評論集の書名の一覧を作成できる程度でしょうか。

A 「もう一つの俳句史」というのも、今回のアンソロジーが完成すれば、ほぼ内側に組み込まれることになるはずなので、あまり意味をなさないものとなりそうです。

B 「百人一句」についてはどうでしょうか。

A やはり百句とその鑑賞のみでは、どうしても俳句を限定したかたちでしか捉えられない憾みがありますね。いろいろな方が百句選んだものを読み比べれば面白いかもしれませんが。

B 結局、これから行うのは「俳句アンソロジー」の作成ということでしょうか。

A そういうことです。さて、そのアンソロジーについてですが、丸谷才一の『日本文学史早わかり』(講談社文芸文庫)を繙けば、日本の詩歌の歴史には如何に多くの詞華集(アンソロジー)が存在していたか、よくわかります。

B 『懐風藻』から『万葉集』、『古今和歌集』、『和漢朗詠集』、『梁塵秘抄』、『新古今和歌集』、『小倉百人一首』、『風葉和歌集』、『風雅和歌集』、『犬筑波集』、『閑吟集』、『毛吹集』、「芭蕉七部集」、「基角七部集」、『武玉川』、「蕪村七部集」等々。

A 明治に入ると訳詩集として森鴎外『於母影』、上田敏『海潮音』、永井荷風『珊瑚集』、堀口大学『月下の一群』などがあります。他に『アララギ年刊歌集』、『ホトトギス雑詠全集』、高浜虚子『新歳時期』の名が挙げられています。

B やはり随分多くのアンソロジーが存在しますね。

A 丸谷才一は同書で〈昔の日本は世界に冠たる詞華集の国だった〉と書いています。

B 確かにそういった感じです。

A では、次に俳句のアンソロジー、もしくはそれに類する書籍の一覧を見てみましょう。

正岡子規編『俳句二葉集』 明治27年(1894)
正岡子規編『春夏秋冬 春之部』俳書堂 明治34年(1901)
尾崎紅葉編『俳諧新潮』 富山房 明治36年(1903)
河東碧梧桐編『続春夏秋冬』 明治40年(1907)
河東碧梧桐編『日本俳句鈔 第一集』 明治42年(1909)
松根東洋城編『新春夏秋冬』 明治41年(1908)
高浜虚子『俳句は斯く解し斯く味ふ』 新潮社 大正7年(1918)
高浜虚子『進む可き俳句の道』 実業之日本社 大正7年(1918)
河東碧梧桐編『日本俳句鈔 第二集』 大正2年(1913)
『現代日本文学全集38 現代短歌・現代俳句集』 改造社 昭和4年(1929)
高浜虚子編『ホトトギス雑詠全集』 全9冊 昭和6年(1931)
高浜虚子編『ホトトギス雑詠選集』 全4冊 改造社 昭和13~18年(1938~1943)
『現代名俳句集』(阿部青鞋編) 全2巻 教材社 昭和16年(1941)
水原秋櫻子『近代の秀句』昭和21年(1946)
山本健吉『現代俳句』 角川書店 昭和26年(1951)
『昭和文学全集41 昭和短歌・昭和俳句集』(山本健吉) 角川書店 昭和29年(1954)
『現代日本文学全集91 現代俳句』(神田秀夫編) 筑摩書房 昭和32年(1957)
『日本国民文学全集35 現代短歌俳句集』(山本健吉編) 河出書房新社 昭和33年(1958)
『日本秀句』 全10巻 春秋社 昭和38年~43年(1963~1973)
楠本憲吉『戦後の俳句』 社会思想社 昭和41年(1966)
『私版短詩型文学全集』全38冊 八幡船社 昭和41~50年(1966~1975)
『近代文学鑑賞講座第24巻 俳句・短歌』(山本健吉編)角川書店  昭和41年(1966)
『新俳句講座3 自由律俳句作品集』(西垣卍禅子編)新俳句社 昭和41年(1966)
大野林火『近代俳句の鑑賞と批評』 明治書院 昭和42年(1967)
『現代文学大系69 現代俳句集』筑摩書房 昭和43年(1968)
『日本現代文学全集108 現代詩歌集』 講談社 昭和44年(1969)
三谷昭『現代の秀句』 大和書房 昭和44年(1969)
『日本文学全集69 現代句集』筑摩書房 昭和45年(1970)
『日本の詩歌30 俳句集』 中央公論社 昭和45年(1970)
『現代俳句大系』 全15冊 角川書店 昭和47~56年(1972~1981)
『現代日本文学大系95 現代句集』筑摩書房 昭和48年(1973)
『日本近代文学大系56 近代俳句集』角川書店 昭和49年(1974)
塚本邦雄『百句燦燦』講談社 昭和49年(1974)
「季刊俳句」3号、4号 堀井春一郎編「鬼のいる風景」第1回、第2回 深夜叢書社 昭和49年(1974)
『明治文学全集57 明治俳人集』(山本健吉編) 筑摩書房 昭和50年(1975)
永田耕衣『二句勘辨』 永田書房 昭和50年(1975)
安井浩司『聲前一句』 端渓社 昭和52年(1977)
高柳重信編『昭和俳句選集』 永田書房 昭和52年(1977)

『現代俳句全集』全6巻(飯田龍太・高柳重信・吉岡實・大岡信編) 立風書房 昭和52年(1977)
金子兜太『愛句百句』 講談社 昭和53年(1978)
塚本邦雄『秀吟百趣』 毎日新聞社 昭和53年(1978)
永田耕衣『名句入門』 永田書房 昭和53年(1978)
大岡信「折々のうた」 昭和54年~平成19年(1979~2007)
『自由律俳句作品史:明治・大正・昭和』(上田都史編 永田竜太郎編) 永田書房 昭和54年(1979)
『現代俳句集成』(山本健吉、草間時彦、森澄雄、飯田龍太編)全19冊 河出書房 昭和55年(1980)
『現代女流俳句全集』全6巻 講談社 昭和55年(1980)
「現代俳句の世界」(齋藤慎爾編)全16巻(朝日文庫) 朝日新聞社 昭和59~60年(1984~1985)
山本健吉『句歌歳時期』全4冊 新潮社 昭和61年(1986)
山本健吉『基本季語五〇〇選』 講談社 昭和61年(1986)
『鑑賞日本現代文学33 現代俳句』(安東次男、大岡信編)角川書店 平成2年(1990)
『昭和文学全集35 昭和俳句集』(飯田龍太編) 小学館 平成2年(1990)
夏石番矢『現代俳句キーワード辞典』 立風書房 平成2年(1990)
『日本名句集成』 学灯社 平成3年(1991)
『名句鑑賞辞典』 角川書店 平成3年(1991)
『短歌 俳句 川柳101年 1892~1992』 新潮社 平成5年(1993)
平井照敏編『現代の俳句』 講談社学術文庫 平成5年(1993)
『最初の出発』全四巻 東京四季出版 平成五年(1993)
『現代俳句パノラマ』(夏石番矢、齋藤慎爾、宗田安正編) 立風書房 平成6年(1994)
宗田安正編『現代俳句集成 全一巻』立風書房 平成8年(1996)
安東次男『其句其人』 ふらんす堂 平成11年(1999)
高橋睦郎『百人一句』 中公新書 平成11年(1999)
宇多喜代子、黒田杏子編『女流俳句集成』平成11年(1999)
田中裕明、森賀まり『癒しの一句』ふらんす堂 平成12年(2000)

季刊・俳句誌「鬣」平成13年(2001)~現在
大岡信『百人一句』 講談社 平成13年(2001)
川名大『現代俳句』 ちくま学芸文庫 平成13年(2001)
松井浩生『百人一句』 禽獣舎 平成13年(2001)
『現代100人20句』邑書林 平成13年(2001)
長谷川櫂編『現代俳句の鑑賞101』 新書館 平成13年(2001)
正木ゆう子『現代秀句』 春秋社 平成14年(2002)
齋藤慎爾編『二十世紀名句手帖』全8巻 河出書房新社 平成15年(2003)
金子兜太編『現代の俳人101』 新書館 平成16年(2004)
宇多喜代子『わたしの名句ノート』富士見書房 平成16年(2004)
『現代一〇〇名句集』(稲畑廣太郎、川名大、村上護、筑紫磐井、小澤克巳編)全10巻 東京四季出版 平成16年(2004)
『名歌名句辞典』(佐佐木幸綱、復本一郎編) 三省堂 平成16年(2004)
宗田安正『昭和の名句集を読む』 本阿弥書店 平成16年(2004)
松林尚志『現代秀句』 沖積舎 平成17年(2005)
『女流俳句の世界』全6巻 角川書店 平成20年(2008)

B 思った以上に多くの資料が存在しますね。

A 正直、こういったアンソロジー的な資料は数が多すぎて把握しきれませんが、主要と思われるのは、大体この範囲内ではないでしょうか。他にも、草間時彦、清水哲男、飯田龍太、村上護、大岡信、福田甲子雄、友岡子郷、村野四郎、宗左近、皆吉司、岸本尚毅などの著作や、様々な俳誌の特集、さらに、歳時期や辞典といった類の書籍も多数存在します。

B これらの成果を踏まえた上でアンソロジーを作成するわけですね。

A あの第二回の「近代俳句史人名リスト」は、これらの資料を踏まえて作成されている部分が多いです。

B ただ、どの作者を選出すべきかという問題は、これらの資料を参考にしてもやはり大変難しいところですね。現在においてもまだ再考の余地が存在するはずです。

A あと、当然のことですが、どのようなアンソロジーにも長所と短所があります。

B それはそうでしょうね。ページ数の制限、時代制限、商業的配慮、編者による偏向、俳壇の力学、作品の膨大さ等々の様々な問題が、どうあっても表に出てきてしまいます。

A それゆえ「完全なアンソロジー」というものは、すこし考えてみればわかるように、ほとんど「幻想」にしか過ぎないということになりそうです。

B こういったものには「完全な正解」が存在しませんからね。

A というわけで、なるべく「バランス感覚を重視したアンソロジー」といったあたりを目指すことにしたいと思っております。

B まあ、可能なのはせいぜいそういったところでしょう。それもまた簡単なものではないような気もしますが。まあ、あまり気負ったものではなく、なるべく軽い気持ちで始めたほうがよさそうではあります。

A とりあえず、今回のアンソロジーでは、一人の作者につき大体15句くらいということにしましょうか。やや少ない気がしますが、多すぎても問題があります。気が向けばまた変更してもいいでしょう。そこに略年譜などのデータを加えます。

B 選も相当厄介な作業となりそうですね。

A これについても当然ながら、完全な正解というものは存在しません。なるべくスタンダードと趣味性をバランスよく混淆させた方向を目指すことにします。あまりありきたりすぎても面白くありませんし、かといって、特殊な方向に走りすぎても作者の本領が伝わりませんので。

B では、次回より俳句アンソロジーの企画として「俳人ファイル」をはじめることにしします。

俳人の言葉 第8回

近代俳句の道を切り開いたのは正岡子規だといわれているが、明治二十年代に正岡子規独りが居たわけではない。沢山いた、それぞれに可能性をもっていたかもしれない多くのその他の俳人を抹殺したのは我々後世の人間である。読者として読まない、関心を持たない。実に些細なことであるがこの積み重ねによって、明治は子規がいなければ俳句の暗黒時代であったと確信させる信念を作り出してしまったのである。

筑紫磐井

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