2009年2月1日日曜日

日常生活動作(番外編) 非日常生活動作 人と会う・・・佐藤文香

日常生活動作(番外編)
非日常生活動作 人と会う

                       ・・・佐藤文香

句会らしい句会にずいぶん出席していなくて、別にそんなに行きたいとも思わないんですが、俳句友達がブログに「今日は充実した句会でした!」とか「二次会でだれやらさんとじっくりお話ができた」と書いてたりすると、「ふん!ひとりで歩き回ってる私の方が金もかからんし充実しとるわ!」とか、「くっそー私を差し置いてあのだれやらさんと!」とか思う。なんだか淋しい子みたいだ。

先日、本当に久しぶりに吟行句会に参加した。お誘いをいただいたときからずっと楽しみにしていた。それは、ずっと会いたかった人に会えるからだった。

会いたかった人とは「鷹」の主宰である小川軽舟さん。一度角川の新年会でお目にかかったきりで、お話もできず、勝手に心の中でお会いしたいなぁと思っていた(きっとお忙しいから、お会いしたいなんて言うのは躊躇われて)。

十一月自分の臍は上から見る  小川軽舟
妻の臍十日見ざりき其角の忌  小川軽舟

勝手にお会いしたいと思っていたのにはいろいろと事情があるのだが、本当に会いたくなったのは小川軽舟句集『手帖』(角川SSC)を読んでからだった。作中の主体と作者を完全に混同した私は、「あの軽舟さんが自分のお臍を見るなんて!!」「軽舟さんが奥さんのお臍を!!」と、身体からビックリマークを大量に噴出しながら、軽舟さんに対して、恋にも似た気持ちを抱くようになった。

めんどりに貝殻食はす桜かな 軽舟」……嗚呼貴方は、めんどりに貝殻をやるのですね、あの笑顔で、軽くしゃがんで。「みそさざい青年の夢安つぽく 軽舟」……貴方も安っぽい夢、たとえば黒木瞳に会いたいとか、そんな夢を抱く頃があったのでしょうか。「眼光ととほきひばりともとめあふ 軽舟」……嗚呼私は、貴方の眼光を受け入れるひばりになりたい。「大景を雁帰りけり晩ごはん 軽舟」……煮物と焼魚、ちょっといいお漬け物、お味噌汁に炊きたての新米を、貴方のために、用意することができたなら幸せです。

……残念なことに、軽舟さんには素敵な奥さんがいて、であるからしてこんな句ができるのであって、仮にも彼の妻が私であったなら、私をこんなにもドキドキさせる作品は作れなかっただろう、だから私は、軽舟さんの妻になることを諦めた(軽舟さんがこの文を見たら、私は嫌われてしまうだろうか?否、彼は笑顔で、佐藤さんも変なことを考えるものですねぇなどと、言ってくださるに違いない)。

そんな妄想でいっぱいだった私は、果して軽舟さんとお会いすることができた。浅草神谷バーの前、短めのダークブラウンのコートにショルダーバッグで、彼は軽やかに現れた。30歳以下の新人吟行会であったが、全く威厳はなく(これは俳句結社の主宰に対する最上の褒め言葉)、「鷹」編集長の高柳克弘さんと兄弟のように話しながら、浅草を歩いていた。

岸本尚毅氏曰く、小川軽舟「鷹」主宰、高柳克弘編集長のコンビは健気なる「幼君幼家老」の風情
幼しや水をさむがるかげぼふし
  小川軽舟

そのときの私に、彼らは「君」とも「家老」とも見えず。

軽舟さんは、俳句のことに関しては、どんな不躾な質問にも大変真摯に応えてくださった。しかし、「最近の女優さんで好きなタイプはいますか」という問いには「内緒にしておきましょうか」と、「好きな食べ物は何ですか」には、「何でも食べますね」、それで「じゃあ最近食べた中で美味しかったものは?」と聞けば「何でしょう、普通のことを言ったら面白くないでしょう、佐藤さんは何が好きですか」と。これでは私の妄想は崩れるどころか、膨らむばかりである。

聞けば高柳さんとすらプライベートな話はしないそうであるから、これはもう、側室になるしかない。ん?無理って?

句会で点が入らなかったのは季語がないからってだけじゃないってわかってるけど軽舟さんへ
言問はば君のかしこき笑顔かな
  文香

--------------------------------------------------

■関連記事

日常生活動作(1)「バナナ」・・・佐藤文香   →読む

日常生活動作(2)「パソコンで聴く音楽」・・・佐藤文香   →読む

日常生活動作(3)「歩けば」・・・佐藤文香   →読む

日常生活動作(4)「写真との非日常は続いた」・・・佐藤文香   →読む

0 件のコメント: