「ゼロ年代の俳句100選」をチューンナップする(一覧篇)
・・・高山れおな
*「現代詩手帖」六月号に載る髙柳克弘編「ゼロ年代の俳句100選」を基に、高山が好みのままに出し入れを行なった改訂版の百句選です。どのように取捨したかについては、「検討篇」をご覧ください。
*太字の作品は、高山が差し替え・追加したものを示します。太字の人名は、高山が差し替え・追加した作者です。
*見やすいように、十句毎に一行アキを取りました。出典は末尾に廻しました。出典も十句毎のかたまりになっています。配列は「現代詩手帖」の百句選と同じく、出典となった句集・雑誌の刊行順です。
ゼロ年代の俳句100選 豈weekly版
露地に棲む神武天皇さんま焼く 角川春樹
海鼠切りもとの形に寄せてある 小原啄葉
天空は生者に深し青鷹(もろがえり) 宇多喜代子
夕刊のあとにゆふぐれ立葵 友岡子郷
雪まみれにもなる笑つてくれるなら 櫂未知子
破芭蕉べらぼうに顎外れたる 岡井省二
蝶われをばけものとみて過ぎゆけり 宗田安正
白粥に女体を想ふ大暑かな 星野石雀
満月や大人になってもついてくる 辻征夫
火に投げし鶏頭根ごと立ちあがる 大木あまり
おおかみに螢が一つ付いていた 金子兜太
葛の花来るなと言つたではないか 飯島晴子
いまならばかげろふの絃爪弾ける 佐藤鬼房
ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ
なかはられいこ
きさらぎの空鬼(くうき)の首に触ったよ 坪内稔典
年寄は風邪引き易し引けば死す 草間時彦
稲光して兄弟のうりふたつ 岩田由美
夏富士やこのおろかなるミルク風呂 岩下四十雀
水温む鯨が海を選んだ日 土肥あき子
咳をして死のかうばしさわが身より 山上樹実雄
短日や西へ灯す秋津島 矢島渚男
狼は亡び木霊は存(ながら)ふる 三村純也
水の地球すこしはなれて春の月 正木ゆう子
地下鉄にかすかな峠ありて夏至 同
山に金太郎野に金次郎予は昼寝 三橋敏雄
その奥に鯨の心臓春の闇 高野ムツオ
かあさんはぼくのぬけがらななかまど 佐藤成之
葈耳を勲章として死ぬるかな 福田甲子雄
歳月や地獄も霞む硫黄島 川崎展宏
わらうて呑みこむ山盛り飯か夜櫻は 竹中宏
青鷺の奥へ奥へとねむる人 永末恵子
老農ひとり男糞女糞を混ぜる春 安井浩司
万物は去りゆけどまた青物屋 同
にはとりの血は虎杖に飛びしまま 中原道夫
寂しいと言い私を蔦にせよ 神野紗希
來たことも見たこともなき宇都宮 筑紫磐井
天の川ここには何もなかりけり 冨田拓也
ことごとくやさしくなりて枯れにけり 石田郷子
まだもののかたちに雪の積もりをり 片山由美子
こののちは秋風となり阿修羅吹かむ 大石悦子
櫻見にひるから走る夜汽車かな 八田木枯
冬真昼わが影不意に生れたり 桂信子
空へゆく階段のなし稲の花 田中裕明
みづうみのみなとのなつのみじかけれ 同
日陰より眺め日向の春の水 深見けん二
万有引力あり馬鈴薯にくぼみあり 奥坂まや
神護景雲元年写経生昼寝 小澤實
ぺらぺらの襟ごと吹かれ赤い羽根 満田春日
人類の旬の土偶のおっぱいよ 池田澄子
戦場に近眼鏡はいくつ飛んだ 同
頭には男根生やし秋の暮 久保純夫
すめらぎのすきまだらけの芒かな 高橋修宏
日輪の燃ゆる音ある蕨かな 大峯あきら
秋簾撥(かか)げ見るべし降るあめりか 高山れおな
十薬にうつろな子供たちが来る 鴇田智哉
涅槃図をあふるる月のひかりかな 黒田杏子
ライラックの香りは四百字ぴったり 宮崎斗士
加速するものこそ光れ初御空 五島高資
初夢のくちびるに来し檜の秀 恩田侑布子
夏をくひとめたいか蝉がまだ鳴く ことり
今年藁夜空を白き鳥ゆけり 対中いずみ
伊予にゐてがばと起きたる虚子忌かな 藤田湘子
恋の闇来にけりけりと遠蛙 高橋睦郎
茹(う)でもんといふは内臓(うちもん)薬喰 茨木和生
したたかに墨を含める牡丹かな 長谷川櫂
玉葱を切っても切っても青い鳥 小野裕三
枯れふかく深くわが名を書いており 津沢マサ子
あをぞらのどこにもふれず鳥帰る 杉山久子
未完に似ませ原爆ドーム風花 柚木紀子
さくら葉桜ネーデルランドのあかるい汽車 田島健一
鶴二百三百五百戦争へ 曾根毅
初雪は生まれなかった子のにおい 対馬康子
牛乳飲む片手は腰に日本人 山本紫黄
死に顔へ海市はこばれゆく夜会(ソワレ) 九堂夜想
少女みな紺の水着を絞りけり 佐藤文香
国よりも旗よりも美(は)しき馬の貌 水野真由美
帰りたし子猫のやうに咥へられ 照井翠
木守柿万古へ有機明かりなれ 志賀康
実(じつ)のあるカツサンドなり冬の雲 小川軽舟
たくさんの音沈みゐる冬の水 綾部仁喜
ガーベラ挿すコロナビールの空壜に 榮猿丸
煙突にあはれ枝なき良夜かな 眞鍋呉夫
きつねいてきつねこわれていたりけり 阿部完市
夏の少女が生態系を乱すなり 大牧広
とととととととととと脈アマリリス 中岡毅雄
降るは光八月六日九日と 佐藤清美
貝殻の色して茸せりあがる 山西雅子
現れて一歩一歩や秋の海女 岸本尚毅
全人類を罵倒し赤き毛皮行く 柴田千晶
だんだんに梵字が読めて瓜を揉む 男波弘志
一滴の我一瀑を落ちにけり 相子智恵
冬の金魚家は安全だと思う 越智友亮
エロイエロイレマサバクタニと冷蔵庫に書かれ 関悦史
雪・躰・雪・躰・雪 跪く 田中亜美
焼跡より出てくるテスト全部満点 谷雄介
枯蟷螂人間をなつかしく見る 村上鞆彦
あぢさゐはすべて残像ではないか 山口優夢
たましひの寄り来ておでん屋が灯る 北大路翼
大西日ミステリーツアーのバス連なる 西澤みず季
謝る木万歳する木大黄砂 小久保佳世子
出典一覧
◆角川春樹句集『いのちの緒』〇〇年二月 角川春樹事務所
◆小原啄葉句集『遥遥』〇〇年四月 角川書店
◆宇多喜代子句集『象』〇〇年七月 角川書店
◆友岡子郷句集『葉風夕風』〇〇年七月 ふらんす堂
◆櫂未知子句集『蒙古斑』〇〇年八月 角川書店
◆岡井省二句集『大日』〇〇年九月 本阿弥書店
◆宗田安正句集『百塔』〇〇年十月 花神社
◆「鷹」〇〇年十月号
◆辻征夫句集『貨物船句集』〇一年一月 書肆山田
◆大木あまり句集『火球』〇一年二月 ふらんす堂
◆金子兜太句集『東国抄』〇一年三月 花神社
◆飯島晴子句集『平日』〇一年四月 角川書店
◆佐藤鬼房句集『愛痛きまで』〇一年七月 邑書林
◆「WE ARE!」三号 〇一年十二月
◆坪内稔典句集『月光の音』〇一年十二月 毎日新聞社
◆草間時彦句集『瀧の音』〇二年五月 永田書房
◆岩田由美句集『夏安』〇二年五月 花神社
◆岩下四十雀句集『覿面』〇二年六月
◆土肥あき子句集『鯨が海を選んだ日』〇二年七月 富士見書房
◆山上樹実雄句集『四時抄』〇二年七月 花神社
◆矢島渚男句集『延年』〇二年七月 富士見書房
◆三村純也句集『常行』〇二年八月 角川書店
◆正木ゆう子句集『静かな水』〇二年十月 春秋社
◆同前
◆「俳句年鑑2003年版」/「俳句」〇三年一月増刊号
◆高野ムツオ句集『蟲の王』〇三年三月 角川書店
◆「芝不器男俳句新人賞 応募作品選句集」〇三年三月 愛媛県文化振興財団
◆福田甲子雄句集『草虱』〇三年五月 花神社
◆川崎展宏句集『冬』〇三年五月 ふらんす堂
◆竹中宏句集『アナモルフォーズ』〇三年五月 ふらんす堂
◆永末恵子句集『ゆらのとを』〇三年六月 ふらんす堂
◆安井浩司句集『句篇――終りなりわが始めなり――』〇三年六月 沖積舎
◆同前
◆中原道夫句集『不覺』〇三年六月 角川書店
◆神野紗希句集『星の地図』〇三年八月 まる工房
◆『セレクション俳人12 筑紫磐井集』〇三年十月 邑書林
◆冨田拓也句集『青空を欺くために雨は降る』〇四年三月 愛媛県文化振興財団
◆石田郷子句集『木の名前』〇四年六月 ふらんす堂
◆片山由美子句集『風待月』〇四年七月 角川書店
◆大石悦子句集『耶々』〇四年九月 富士見書房
◆八田木枯句集『夜さり』〇四年九月
◆「草苑」〇四年十二月
◆田中裕明句集『夜の客人』〇五年一月 ふらんす堂
◆同前
◆深見けん二句集『日月』〇五年二月 ふらんす堂
◆奥坂まや句集『縄文』〇五年三月 ふらんす堂
◆小澤實句集『瞬間』〇五年六月 角川書店
◆満田春日句集『雪月』〇五年六月 ふらんす堂
◆池田澄子句集『たましいの話』〇五年七月 角川書店
◆同前
◆久保純夫句集『光悦』〇五年七月 草子舎
◆高橋修宏句集『蜜楼』〇五年七月 草子舎
◆大峯あきら句集『牡丹』〇五年八月 角川書店
◆高山れおな句集『荒東雑詩』〇五年八月 沖積舎
◆鴇田智哉句集『こゑふたつ』〇五年八月 木の山文庫
◆黒田杏子句集『花下草上』〇五年十月 角川書店
◆宮崎斗士句集『翌朝回路』〇五年十二月 六花書林
◆五島高資句集『蓬莱紀行』〇五年十二月 富士見書房
◆恩田侑布子句集『振り返る馬』〇五年十二月 思潮社
◆第二回芝不器男俳句新人賞応募作(最終選考会 〇六年三月)
◆対中いずみ句集『冬菫』〇六年四月 ふらんす堂
◆藤田湘子句集『てんてん』〇六年四月 角川書店
◆高橋睦郎句集『遊行』〇六年六月 私家版
◆茨木和生句集『畳薦』〇六年八月 角川書店
◆長谷川櫂句集『初雁』〇六年九月 花神社
◆小野裕三句集『メキシコ料理店』〇六年十二月 角川書店
◆『津沢マサ子俳句集成』〇六年十二月 深夜叢書社
◆杉山久子句集『春の柩』〇七年二月 愛媛県文化振興財団
◆柚木紀子句集『曜野』〇七年四月 角川書店
◆「東京新聞」〇七年四月二十六日夕刊
◆「光芒」五号 〇七年五月
◆対馬康子句集『天之』〇七年七月 富士見書房
◆山本紫黄句集『瓢箪池』〇七年八月 水明俳句会
◆「LOTUS」九号 〇七年九月
◆佐藤文香句集『海藻標本』〇八年六月 ふらんす堂
◆水野真由美句集『八月の橋』〇八年八月 鬣の会
◆照井翠句集『雪浄土』〇八年八月 角川書店
◆志賀康句集『返照詩韻』〇八年九月 風蓮舎
◆小川軽舟句集『手帖』〇八年九月 角川SSコミュニケーションズ
◆綾部仁喜句集『沈黙』〇八年九月 ふらんす堂
◆「俳句」〇八年十一月号
◆眞鍋呉夫句集『月魄』〇九年一月 邑書林
◆阿部完市句集『水売』〇九年二月 角川書店
◆大牧広句集『冬の駅』〇九年四月 本阿弥書店
◆中岡毅雄句集『啓示』〇九年七月 ふらんす堂
◆佐藤清美句集『月磨きの少年』〇九年八月 鬣の会
◆山西雅子句集『沙鷗』〇九年八月 ふらんす堂
◆岸本尚毅句集『感謝』〇九年九月 ふらんす堂
◆柴田千晶句集『赤き毛皮』〇九年九月 金雀枝舎
◆男波弘志句集『阿字』〇九年十二月
◆『新撰21』〇九年十二月 邑書林
◆同前
◆同前
◆同前
◆同前
◆同前
◆同前
◆同前
◆西澤みず季句集『ミステリーツアー』一〇年一月 角川書店
◆小久保佳世子句集『アングル』一〇年一月 金雀枝舎
初出不詳としていたなかはられいこ作品の出典を追記しました。(六月二十八日変更)
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俳誌雑読 其の十五 「ゼロ年代の俳句100選」をチューンナップする(検討篇) →読む
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