2009年12月6日日曜日

若手発掘の責任

『新撰21』刊行記念-Ani weekly archives 008.06.12.09-
若手発掘の責任

                       ・・・筑紫磐井


私が俳句を始めた頃(一九七〇年代)は、結社にまだ無名の若い俳人が多くいた時代であった。彼らが俳壇で目覚ましい活躍をするのは、一九八〇年代に入ってからであるが、こうした若い俳人が俳壇で活躍するには、後発出版社の牧羊社の計り知れない影響があった。


一九六〇年代後半から俳句事業に本格参入し、総合誌「俳句とエッセイ」を創刊した牧羊社は、一九八〇年代から若手俳人を精力的に発掘した。「俳句とエッセイ」誌での若手俳人の大作連載(毎月数人の同じ作家が二〇句掲載していた!)、若い人向けの安価な処女句集シリーズ(一九八四年~。片山由美子、小澤實、岸本尚毅、鎌倉佐弓、対馬康子、今井聖、鈴木貞雄、星野高士らがいた)、一部の若手を権威づける精鋭句集シリーズ(一九八五年~。田中裕明、長谷川櫂、夏石番矢、和田耕三郎、島谷征良、西村和子らがいた)を刊行した(これら句集シリーズの担当は、後にふらんす堂を起こす山岡喜美子氏)。特に精鋭句集シリーズは一二人の極めつけの精鋭であり、牧羊社は俳壇全体に呼びかけ盛大な出版記念会を催している。象徴的なのはここで知り合った「俳句評論」のプリンス夏石番矢と「沖」のプリンセス鎌倉佐弓(当時にあっては正木ゆう子はまだ認知度が低かった)が結婚したことだった。


後塵を拝した「俳句」「俳句研究」「俳壇」はやや遅れて若手の売り出しとそれに対する飯田龍太、有馬朗人、上田五千石などの大家による批評で盛り返しつつあった。ジャーナリズム全体が若手発掘に燃えていた時代であった。


こうした一九八〇年代の活況にくらべ、当今の俳句ジャーナリズムは若手の発掘にどれほど熱心なのだろうか。もちろん、当時に比較して俳句に熱中する若い人々が根本的に払底してしまっているという非難もあながち的外れではないようだが、ジャーナリズムが与える機会は当時にくらべても低いようであり、現在の若手にとっては不本意であるに違いない。


さて「―俳句空間―豈weekly」というブログが「豈」の若手によって立ち上がった。ふつう、ブログはお金のない若い人々が手軽に利用する手段としているが、どうしたわけかこのブログをきっかけに次代の若手を発掘するセレクションの企画・資金の申し入れがあった。沈滞している俳句ジャーナリズムの若手の発掘への呼び水になることを期待して、現在その編集作業を行っている。本年一二月に刊行予定である(邑書林より)。


対象は二〇〇一年以降にデビューした四〇歳以下(U-40)の若手で、結社を超えて活躍する二一人の自選一〇〇句を掲載する。特に売りは、八人の十代二十代作家。人選は高山れおな(四一歳)が行い、一九八〇年代の若手(つまりU-60のわれわれ)が助言役に回った。二一人の作家論は、少し年長の四五歳以下(U-45)の若手?が行う。若手の、若手による、若手のためのセレクションである。


この企画を進めている中で痛感したことがある。こうした企画はとかく指導者的な「上から目線」となりやすいが、そうした「上から目線」を排除することこそが若手企画では大事なのではないかということであった。企画を四一歳が行い、四〇歳以下(U-40)の若手と四五歳以下(U-45)の作家論執筆者を選ぶということは、自らの運命を自分たちで決めるということだ。彼らに、評価能力があるのかないか、それは定かではない。しかし、未来の俳句の評価能力が四五歳以上の俳人にあるかどうかも実はいっそう定かではないはずだ。


正岡子規が、「獺祭書屋俳話」で全国に知れ渡った後、明治二六年(つまり一一六年前)の夏、一ヵ月にわたって東北の俳人と俳句を語る旅に出た。そのとき知ったのは、彼ら地方の俳人が新しい俳句の話をしてもまったく聞き分けることができず、あまつさえ子規の年若いのを見て軽蔑し、旧派の結社に入れと勧誘する始末であったことだ。絶望憤懣の子規の手紙が今日も残っているが、これは決して明治二〇年代の古い話ではない、二一世紀の今も続いている絶望なのである。


もちろん、今回の企画ならではの独断と偏見は否定しない。私の助言のポイントは「多様性」。まっとうなセレクションでは絶対に取り上げられない作家(私のような)を多く入れてほしいと言うことであった。これに対する批判は、それぞれの出版社・結社が別のセレクションを出すことで補えばいいのである。

                     (「麟」第29号より転載)


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近刊予告……絶賛予約受付中(今週刊行決定!)

編*筑紫磐井・対馬康子・高山れおな

セレクション俳人 プラス 新撰21


21世紀にデビューしたU-40世代21人による鮮しい成果の集成

いま、1人100句を携えて、現代俳句の大海原へと漕ぎ出す

合評座談会(一挙22ページ掲載)……小澤實+筑紫磐井+対馬康子+高山れおな

U-45世代によるU-40俳人小論併載

邑書林 定価=税込1890円

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「新撰21」刊行記念シンポジウム&パーティ

新撰21竟宴


12月23日(祝)13:30~17:00~20:00

シンポジウム……俳句今昔物語-「新撰21」から時代と次代を読む

第1部 池田澄子+小澤實+筑紫磐井

第2部 対馬康子+関悦史+相子智恵+佐藤文香+山口優夢+進行・高山れおな

参加自由(事前申し込み制)

内容確認ページへ…… http://8548.teacup.com/kyouen/bbs

主催・申込み・お問合せ先……邑書林…… younohon@fancy.ocn.ne.jp


9 件のコメント:

なお さんのコメント...

「新撰21」に出典されている豊里友行さま

『新撰21』購入しました。
沖縄独特な俳句はまだ俳句界では受け入れらなれないのでしょうか。
わざわざ沖縄で一般的な辞書などにあれば注釈を入れていては俳句本来の読み説きも興ざめするし、そこまで読者に媚びる必要はありません。理解したい(わかる人)だけでもいいのではと思えた。
沖縄を理解するのが難しいというより社会に疎い俳人なんだろうと思えた。なぜ豊里俳句が重いのか根源的に問い直すべきではないか。
花鳥諷詠や自分の殻に閉じこもった俳人なんて糞くらえだと思う。あと社会派とか分類主義の意見も聴きすぎないほうがいい。
現在の俳句はこじんまりとしている。
もっと他分野からも活力を得たり刺激を与える分野になりうるジャンルだと信じてやまない。
豊里氏はそのまま自分の道を突き進んでほしいです。

匿名 さんのコメント...

 筑紫磐井さま

ご恵与、ありがとうございました。
視神経の不調で、一度にぜんぶ読めないのが残念ですが、毎日、少しずつ、読ませて頂いております。
このアンソロジー、とても、有意義なお仕事だと思っております。
若い世代にも、有望な方がたくさんいらっしゃること、作品に共感しながら、心強く、拝読しております。
かつて、高柳重信がしていたような場が、現在、俳壇の中で、「豈」くらいしか、私にとっては、見受けられないので、筑紫さんのグループのお仕事は、とても、大切なことだと、思っております。

              中岡毅雄

匿名 さんのコメント...

海馬 みなとの詩歌ブログ
http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/758/
http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/759/

haiku&me
http://haiku-and-me.blogspot.com/2009/12/blog-post_07.html?showComment=1260448414276

ono-deluxeの空間
http://www.kanshin.com/diary/2012258

匿名 さんのコメント...

海馬 みなとの詩歌ブログ
藤田哲史http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/760/
山口優夢
http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/761/
佐藤文香
http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/762/
谷雄介
http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/763/

e船団 日刊:この一句
2009年12月12日
http://sendan.kaisya.co.jp/ikkubak.html
2009年12月13日
http://sendan.kaisya.co.jp/ikku.html

閑中俳句日記(別館)
http://kanchu-haiku.typepad.jp/blog/2009/12/%E8%B6%8A%E6%99%BA%E5%8F%8B%E4%BA%AE%E8%97%A4%E7%94%B0%E5%93%B2%E5%8F%B2%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E5%84%AA%E5%A4%A2%E6%96%B0%E6%92%B021%E3%81%8B%E3%82%89%E4%B8%80.html

匿名 さんのコメント...

朝日俳壇の時評欄にも取り上げられたようですね。

曾呂利亭雑記
http://sorori-tei-zakki.blogspot.com/2009/12/blog-post_13.html

「新撰21」、KINO新宿本店に本日入荷しました。
http://f.hatena.ne.jp/twitter/20091212181815

匿名 さんのコメント...

週刊俳句 後記
http://weekly-haiku.blogspot.com/2009/12/138.html

匿名 さんのコメント...

海馬 みなとの詩歌ブログ
『新撰21』鑑賞: 外山一機
http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/764/

湊圭史 さんのコメント...

匿名さま

拙ブログへのリンク、ありがとうございます。ただし、あと15名について書く予定ですので、この辺りで打ち止めをお願いいたします。豈Weeklyのコメント欄を占拠するのは本意ではありませんので……。

INDEX

http://umiuma.blog.shinobi.jp/Entry/758/

を目次、句と俳人名を各俳人の鑑賞へのリンクとしております。引きつづきお付き合い願えれば幸いです。

湊圭史

匿名 さんのコメント...

喜代子の折々
セレクション俳人プラス  『新撰21』 2009年12月 邑書林刊
http://dp14271926.lolipop.jp/modules/?p=1055