2009年6月12日金曜日

海辺のアポリアを読む 1

安井浩司著『海辺のアポリア』を携えて深山董を探しに【第一回】

                 ・・・救仁郷由美子


―はじめに―
書かれたエネルギーがこちらの書き出すエネルギーを蓄え、そして、言葉に触発されて実行行為が書き出す場に生成される。現在活躍する俳人達の中でも、尊敬する俳人のひとり、林桂に触発されて書き出した「永劫の縄梯子」と同様に、『海辺のアポリア』の批評を、もっとも敬愛する二人の俳人・志賀康と高山れおなの批評文に引き出されるように、今、書き出したいと考えている。もちろん、関悦史の批評からも思考を与えられている。そして、今泉康弘や高橋修宏の批評の力量を心底うらやましくも思う。豈の雑誌誌上に書き出された安井俳句への批評は、一文一文が、私を学びの場へと運んでいく。そして、豈の誌上の論客達が、次世代の俳句の方向性を創っていくことも確かなことのように思える。

次代の俳人たちへの伝言として書き出したいと考えるが、なおも、いま一番の切っ掛けは、5月31日の豈weeklyの高山れおなの一文である。引用の抜粋を数行書き出す。

(略)『荒東雑詩』の句の「ほとんどが意味を越えて、安易な理解を拒絶している」などとは、ずいぶん驚いた話である。(略)あの句集はベタベタの意味筋で作られた作品がほとんどで、よほどの保守的でステレオタイプな俳句観に懲り固まっているのでなければ、総じてわかりやすい句集だと思う。実際、関悦史や山口優夢がごく穏当に的確に読んでくれている。

「船団」ホームページ、塩見恵介の高山れおなの句への読解の返答であると思うが、高山れおなの句に感じる分からなさは筆者にもある。『荒東雑詩』を分かりやすい句集とは、今も思えずにいる。アナーキーズムな思考を好む筆者が分からないということは、高山れおなの言葉から想像すると、学歴底辺に位置する定時制高校出身、筆者のような独学の知識では、「言葉の読み取りの次元で、クリアしなければならぬ水準」には届かないようだ。そして、「書かれている通りに読むという基礎作業」の基礎的な知を理解せよと言われても、筆者には無理難題である。水準や基礎作業を身に付けるのにはどうすればよいのだろうか。偏差値70以上の高等教育からなどと言われたら、とても困るが、関悦史や山口優夢が読めて、たとえ高等教育を受けても、保守的でステレオタイプな俳句観では読めないとすると、やはり、各自の言語世界の領野が句の読みを決定するとしか言いようがない。

つまり、言語の恣意性によって生じてくる読みの異なりを前提としなければ、作者の階級や位相の同位において正しいとされる読みが決定される。そのような読みの正しさの決定より、有季定型の学習による俳句の読みの方法の方が共同体的に開かれたものとなる。

水準も基礎作業も関係なく互いの言語世界の領野を越境し合わなければと思う。

なお、このような高山れおなの方法を批評するのも、余計な口出しなのかも知れない。ただ、この位置で批評(感想)を止めていたら、俳句の開けはこれ以上起きないだろう。これからも、今も、高山れおなは俳句批評の第一線の人だ。高山れおながどう批評の位置を変えていくのか、そのことだけでも、俳句批評は開けてくる。高山れおなと関悦史の連携は最強である。二人の安井俳句の思考の類似の方向性に、どのような立場表明が出来るか。「全体と全体以外」の思考が構造主義的思考方法による思考形態を示すが、明確にはつかみ得ない。志賀康の批評と、どう関連するのか。ワーキングプアとして肉体労働で日々疲労している老体から思考を引き出すのは容易ではない。それゆえに不定期になるが、『海辺のアポリア』を基点に、書き出していきたいと考えている。

補足。
高山れおなの句は、読みの行為において、意味表出以前に、読み手の情動が動き出す。そのことを塩見恵介自身の言葉で評したように思う。分からなくとも感動し、勘違いな読みが生じるのは、俳人高山れおなが、現代俳句において突出した詩的才能を持つからだと言える。それでもなお、作者高山れおなの納得するように、穏当に的確に読まなければならないのだろうか。そんな疑問を持ちつつ、筆者は、以下の言葉を心に留めておきたいと、今はただそのように思う。

汝は相対峙する作品そのものとして生きることが何よりも肝要ではないかと、取り敢えず断じておきたい。(安井浩司「鑑賞心脱落―俳句鑑賞とは何か」)


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