2009年4月5日日曜日

中山美樹句集『Lovers』評

流れを追えば
中山美樹句集『Lovers』


                       ・・・青山茂根

自然の中で遊ぶ系の育児サークルやプレーパークなどのイベントに顔を出していると、決まってその時期には毎週どこかで「流しそうめん」が行われる。地域の地主さんから提供されたり公園管理地に植えられた青竹を切ってきて、節を落としつないで長い樋を作ると、それぞれの家から一束づつ持ち寄った素麺を集めて茹でて、流すというアレである。時に一口ゼリーやら缶詰のみかんやらが流れてきて、子供たちは大喜びのイベントだが、私は流れてきたものを食べるのがあまり好きではないので、眺めているだけだ(似たような理由で回転寿司も苦手だ)。曲水の宴や雛流しや笹舟や、七夕竹を川に流したり、流燈という行事も、皆その邂逅の一回性を楽しむためのものなのだろう。

と、なかなか俳句の話に入れないのだが、その流しそうめんの会場にも必ず悪ガキという類は存在し、箸やら皿やら器やらで、流れを滞らせて遊ぶやつがいるのだ。ビーバーが堰を作るように、流れを一時的に止めて溢れさせる、俳句の流れの中での切字の効果も、あるいは似たようなものかもしれない。五七五の言葉の流れに、やかなけりなどを入れることによって、そこで堰きとめられる何か、感情や情景や、その他の言い表しにくいものを恣意的に溢れさす仕掛け。そんなものがなくても、もちろん俳句にはなりうるのだが、ちょっとそんな手も使ってみたい、ということか。

中山美樹氏の句集『Lovers』がなぜ横組みなのか。霜田あゆ美氏の童心を感じさせる(でもマチス的だ)挿絵があるから? 俳句はやっぱり素麺のように縦に流れたい気がする私は、PC上の俳句の横書きの表記も何か停滞する感じがして落ち着かないのだが、下へスクロールする画面上では縦に表記しても見にくいのは確か。自分のPCに、少しだけ斜め右肩下がり、などという行組設定ができないものかと本気で考えている。

逢うために夢の氷河を泳ぎきる
春宵や星にちかづく腕枕

恋愛はその場の一度限りのものだ。しかし、その記憶は当事者たちの内部に残る。会っているときの充足感、別れの時の剥落感、相手の感触や言葉など、その恋愛が終わってしまっても、当の相手が眼の前から消えても、時折記憶の中から取り出して慈しむことができる。縦に書かれた句がその一回性を流れるためならば、横組みのこの句集の句たちは、そこにたゆたうことを許容しているのか。

どうしたって木蓮につめよる
しゃぼんだまにつかまっちゃって痛い
逢わんとこあすぱらがすに言わんとこ

これらの句に、過去の、あるいはまだ形にならない、恋愛のあれこれを載せてみる。特定の誰かであったり、ただその触れた掌だけであったり、実体のない意識の塊をいとおしむ。日々の閉塞感をドライアイスで包むひととき。

吊り橋をゆらして逢いに行ったきり
恋かしら猫と眠ってばかりいる
ボクハキミノアヤマチデシカナイ 冬

ああもう夕飯の支度をしなくちゃ、とか、さっき机の上を片付けなさいと言ったでしょ、などという弾丸が口から発射される前の、ささやかな、つかの間の日常との乖離。その句と挿絵との白い空間に、私は最近お気に入りの役者の鈴井貴之の、長い指先や番組の中で見せたバスローブ姿などを思い描いて、ひとときほわりと宙に浮かぶ。

3 件のコメント:

さんのコメント...

こんばんわ。

茂根さんその節はありがとうございました。
今回は、ミッキー鑑賞ですね。
(ミッキー、おげんきですか?たのしい句集をありがとう。)
ねえ、茂根さん。
彼女ってとにかく女の子っぽいでしょう、でもこれを読むと、かなり達者なストーリーテラーですね、大人の女(当たり前ですが)。
その上
俳句が生きのびる道をひとつさぐりあてたみたい。

恋かしら猫と眠ってばかりいる
ボクハキミノアヤマチデシカナイ 冬
                 美樹

なんて、少女漫画の台詞みたいですが、いがいにも言葉がしっくりしていますね。

これなんか、

春宵や星にちかづく腕枕 美樹

巧い俳句だなあ、と思います。


恋愛はその場の一度限りのものだ。しかし、その記憶は当事者たちの内部に残る。「当の相手が眼の前から消えても、時折記憶の中から取り出して慈しむことができる。縦に書かれた句がその一回性を流れるためならば、横組みのこの句集の句たちは、そこにたゆたうことを許容しているのか。」
(茂根)

このあたり、横書き俳句の生理を摑んでいると思いました。思い出の反復と結びつけたのは鋭い。

茂根 さんのコメント...

吟さまコメントありがとうございました。一週間ほどPCがダウンしていたため返答遅れました。
今回のミッキーさんの句集、俳句になじみのない方にも受け入れられるものになっていますね。挿画とのコンビネーションもばっちりと思います。
以前、俳誌『月刊ヘップバーン』の横書きを見たときとは、まったく異なる印象でした。
装丁の力もあるのでしょうが、「俳句が生きのびる道をひとつさぐりあてた」とのお言葉に頷いています。

関西の皆様にどうぞよろしく。  青山茂根

さんのコメント...

茂根様。中山美樹、高遠朱音さんの句集については、今回の《書物の影9回》、拙文にあらためて小文ながら書評を書いています。ご一読さい。
大本義幸さんお元気です。吟