2010年6月21日月曜日

閑中俳句日記(38) 第3回芝不器男俳句新人賞公開選考会・自宅観戦記・・・関 悦史

閑中俳句日記(38)
第3回芝不器男俳句新人賞公開選考会・自宅観戦記

                       ・・・関 悦史

 昨日、第3回芝不器男俳句新人賞の公開選考会があった。
 季節の変わり目などに妙な熱を出すタチなので、今週の原稿を出すのが遅れてしまい、いつも通り何かの句集評を書いて追加してもらおうと思っていたのだが、ちょうどこの遅延の間に選考会が挟まった。昨日の今日で無関係なことばかり書くのも白々しいし、今回は昨日の模様をちょっと書いておく。

 前回の公開選考会は東京だったので立ち会えたのだが今回は松山である。私は行かずに家にいたが、ITの進化のおかげで、従来ならばありえない形で選考の模様を知ることとなった(以下、昨日ツイッターにかじりついていた人にとってはほとんど既知のことばかりになります)。

 最初は松山に行く知人の俳句関係者たちにUstream(ユーストリーム)で生中継は出来ないかという話をしていたのだが、これは現場にネット環境がない等の理由で挫折。
 あとは参加者各自が携帯電話から流すであろうバラバラのツイートを見て状勢の変化を窺うしかあるまいと思いつつパソコンの前に坐っていたら、ここで意外なことが起こった。
 ツイートを流し続けてくれたのは始まってみればただ一人しかいなかったのだが、そのただ一人である佐藤文香が信じがたい高速打ち込みの腕を見せ、選考経過をつぶさに全部実況してくれたのである。

 その佐藤文香全実況を始め、昨日の不器男賞関係のリンク先はウラハイ = 裏「週刊俳句」(http://hw02.blogspot.com/2010/06/news_20.html)にまとまっているので、ちょっとそちらをご覧いただきたい。


 選考の手順は、まず各選考委員がそれぞれ意中の5篇を選んでその長所を語り、次にそれを2編ずつに絞り、最後に1点、決を取るような形で上げていくと、概ねそういうものだったのだが、その発言要旨を佐藤文香が逐一拾い、ツイートしていった。

《大石委員長29。ドキドキしながら読んだ。劇画チック、動きをうまくとらえた表現。無季をカバーする作品。 #fukio》

《城戸委員85。口語による自由な現代感覚の表出。軽やかでありながら本質に触れる。 #fukio》

 とまあこういった調子。「29」とか「85」とかいうのは、候補作の作品番号である。
 この精度を保ったまま、選考開始の午後1時から終了の午後3時半過ぎまで約100分間をひたすら突っ走り、賞が決まった後も、前に呼び出された受賞者の写真などを織り交ぜて会場の模様を実況、さらにはそのまま終了後の大宴会「ガニア主催、審査員といっぱつじゃこてんを食べる会」の模様に至るまでツイートし続けてくれたのであった。

 番号を示しただけのツイート情報ではほとんど何もわからないのではないかと思われるかもしれないが、さにあらず。不器男賞の場合は予選通過作30篇各100句が全篇全句匿名のまま番号を振られ、ウェブ上で公開されているのである(http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/initial_screening_result.html)。
 これと組み合わせ、話の流れで番号が出るたび、こちらがその候補番号のpdfファイルを開けていけば、どの句について誰が何を言っているのか、かなりの程度追っていけるのだ。
 そういうわけで昨日実況につきあっていた人間はその早業に瞠目し、サトアヤ頑張れなどと実況者に声援を送ったりもしつつその成り行きを見守ることとなったのである。

 以下、選考過程の概略だけまとめておくので、委員の発言や雰囲気を知りたい方はぜひとも佐藤文香のツイートを追体験してください(http://twitter.com/#search?q=%23fukio)。

 まず各委員が最初に選んだ5篇。

・大石悦子委員長

12 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/012.pdf
18 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/018.pdf
29 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/029.pdf
72 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/072.pdf
78 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/078.pdf

・城戸朱理委員

03 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/003.pdf
29 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/029.pdf
44 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/044.pdf
72 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/072.pdf
85 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/085.pdf

・齋藤愼爾委員

02 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/002.pdf
29 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/029.pdf
58 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/058.pdf
72 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/072.pdf
88 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/088.pdf

・対馬康子委員

13 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/013.pdf
18 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/018.pdf
49 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/049.pdf
50 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/050.pdf
81 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/081.pdf

・坪内稔典委員

29 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/029.pdf
58 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/058.pdf
71 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/071.pdf
84 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/084.pdf
85 http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku2/result01/085.pdf

 そしてそこから各委員が絞り込んだ2篇。

城戸朱理 72と85
齋藤愼爾 58と72
対馬康子 49と81
坪内稔典 29と58
大石悦子 29と72

 熱い討議を経て、「3時半までに決めたい」と我尼吾さんから声がかかり、いよいよ最後の記名投票。

城戸朱理 29
齋藤愼爾 72
対馬康子 81
坪内稔典 29
大石悦子 29

 結果は既にあちこちに出ているが以下の通り。

芝不器男俳句新人賞=原田満智子さん(29番)
大石悦子奨励賞=成田一子さん(12番)
城戸朱理奨励賞=岡田一実さん(85番)
齊藤愼爾奨励賞=堀田季何さん(72番)
対馬康子奨励賞=中村安伸さん(81番)
坪内稔典奨励賞=高岸容子さん(58番)
西村我尼吾特別賞=園田源次郎さん(60番)

 この豈weeklyの編集に当たってくれている中村安伸氏が対馬康子奨励賞に決まった。おめでとうございます(決まった早々この遅延原稿のアップ作業にも当たっていただかなければならないのでありますが)。
 本賞受賞の原田満智子さんというのが存じ上げない上にウェブ上でも情報があまり見当たらない方なのだが、この方、前回の不器男賞でも一次予選を通っていたようで、前回の選考結果ページでも当時の作品を見ることが出来る(http://www.ecf.or.jp/shiba_fukio_haiku/result.html)。
 西村我尼吾特別賞というのは今回新設されたもの。一次予選を通過しなかった作品から選ぶという敗者復活的な趣旨らしく、まことに我尼吾さんらしい。

 他の人のツイートもまるっきりなかったわけではない。
 どうでもよくもディテールや雰囲気の伝わる写真なども色々と逐次上がっており、例えば当日の城戸さんのお弁当(http://twitpic.com/1ybv3n)だとか、松本てふこが泊まった宿のものすごい調度だとかも知ることが出来る(http://photozou.jp/photo/show/561817/41081307)。テレビ台がビールケースですよ、あなた。

 私が第1回の不器男賞に応募したときは、確かフロッピーディスクを郵送とかいう変な手段で作品を送ったはずだ。
 メールでも良いことになっていたのかもしれないが、こちらにネット環境がなかったのかもしれない。賞新設の告知も雑誌でしか見た記憶がない。

 それが今回は現地に行かずともそれなりに臨場感をもって楽しめたわけで、第1回の頃からすると隔世の感がある。おかげで昨日は自宅でお茶を飲み、同時に別なサイトでトミタクとボソボソやり取りしたりもしつつナマの選考経過を知ることが出来たのであった。
 それはそれとして、現地に行けた人たちはぜひともそれぞれの立場で体験を書き残しておいてほしいところ。書いておくかおかないかで「歴史」になるか消えてしまうかが別れてしまったりもします。

 出来れば我尼吾さんを始めとした関係者へのインタヴューなどをまとめた、不器男賞の成立過程から現在までを通観できるドキュメントの冊子が見てみたい。これは俳句甲子園(こちらは私はご縁がなく、ほとんど何もわからない)についても同様。新書かムックか雑誌の増刊号みたいなものでも構わないから、どこか出してくれないものか。あとあと必ず史料になります。

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